雨に霞む紀ノ川

広い河原が眼下に現れた。
紀ノ川であった。
遠くの山が霞み、この川の源など、まったくどこなのか考える気すらしなかった。
その昔、このあたりに川辺に渡し場があり、旅人たちを大河の向こうへと渡していた。
この川を越えると、道は一気に険しく、そして熊野の空気が濃くなる。
恐らく、この場所で引き返そうと思った者たちもいたことだろう。
どんよりとした空の気配が、そんな重い気持ちを一層重いものにしたこともあることだろう。
この川を渡ると、いよいよ道は深い山や森へと踏み込む。

 
熊野街道
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Photo:Shuji Enmando